事業再構築指針の概要
【2021/3/30更新】
2021/3/29付で、同3/17に公表された事業再構築指針とその手引き(合わせて「指針」)が修正・更新されました!
主要な修正の取りまとめは別記事をご覧いただければと思いますが、当該修正に合わせてこれまでの記事中の必要箇所を修正・差し替えしました。
こんにちは!川島公認会計士事務所代表の川島です。
昨年公表された「令和2年度第3次補正予算案」の中でも非常に注目を浴びた事業再構築補助金。日に日に注目度も増し、私も問い合わせが多くなる中、本補助金は初めてのものであるため詳細がわからない段階ではなかなかお話しにくいところではありましたが、2021/3/17、遂に事業再構築補助金の事業再構築指針・手引き(以下合わせて「指針」とします)が公表されました。
そしてこれを見てこう思った方も多いはず。
「・・・思ってたより厳しそうじゃね?・・・」
はい、最初にぱっと見たとき、私はこう思いました。元々誰彼と応募できるほど簡単ではないだろうと思ってましたし、私のネットワーク内の専門家と話をしていても同意見の方が多数でしたが、それでも思っていた以上に間口が狭くなりそうな気がしたのが正直な感想です。
そんな感想ではありましたが、一方でこの指針の背後にあるメッセージを考えると(勝手な解釈ですが)、本補助金は施策として良いものになる可能性も高いかなと思いましたし、厳しく感じる内容につき裏返せばポジティブな要素もあるなと感じました。
いずれにせよ指針が公表されたので具体的な検討に入れる段階になったと思いますので、本補助金の利用を検討されていた方で、特に1次公募に応募されたい方は早々に準備・検討に取り掛かる必要があると思います。
一番重要なポイントになるであろう再構築の定義・要件について指針が示されましたので、まずは大枠を理解するために本ブログではできるだけ簡単に取りまとめていきたいと思います。
なお、本ブログでは、公表された指針・手引きの内容について、全体像の理解のためになるべく分かりやすい言葉や表現で記載することを趣旨としております。そのため、言葉の正確性や内容の網羅性を担保するものではありませんので、実際の申請に当たっては本指針と今後公表される公募要領等を必ずご確認ください。
また、本ブログは私見を含んでおり、当該私見はその妥当性を保証するものではありませんのでご留意ください。
経済産業省の事業再構築指針・手引きはこちら
事業再構築の定義は?
指針では、事業再構築は5つの類型(新分野展開、業態転換、業種転換、事業転換、事業再編)のいずれかを行う計画に基づく中小企業等の事業活動と定義され、その類型は以下の5つとされています。
この5つの類型のどれかに当てはまる事業活動を行わないと、事業再構築の定義を満たさず本補助金の応募ができないということになります。ちなみに、上表5つ目の事業再編については、いわゆるM&Aを行った上でその他4つのうちのどれかに当てはまる必要があるというものですので、実質的には4つの類型と考えてよいと思います。
大きくは「業種」あるいは「事業」の変更の有無で大別でき、後に記載する各類型に該当するか否かの判断基準となる「要件」のうち、売上高に関する要件で大きく異なることになります。
なお、指針上の「業種」「事業」は以下の通り定義されており、参考として以下の資料が公表されています。
業種:直近決算期における売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく大分類の産業
事業:直近決算期における売上高構成比率の最も高い事業が属する、総務省が定める日本標準産業分類に基づく中分類、小分類又は細分類の産業
令和3年3月17日 経済産業省 中小企業庁 「事業再構築指針の手引き」
各類型ごとの詳細はまた別のブログでまとめますので、以下では各類型ごとの該当要件についてまとめたいと思います。
各類型に該当するための要件は?
指針では、各類型ごとにその類型に該当するための要件が設けられています。各類型ごとに求められる要件は、共通しているものもあるもののそれぞれ異なりますので、この類型に該当しそうだなと当たりをつければ、次は実際に該当するための要件を確認しましょう。
なお、この要件はすべて事業計画で示す必要があるものですので、実際の事業計画作成においては必ず反映させるようにしましょう。
まず、各類型ごとに必要となる要件を要約しましたので、各類型ごとにどのようなものが必要であるかを理解してください。
指針では、上表のように6つの要件が示されています。大別すると、再構築と言えるための事業活動内容(上4つ)とその程度・定量要件(下2つ)といった具合でしょう。
そしてここで注目したいのが、売上高の要件です。本指針を見たときに、上4つの要件も必ずしも簡単ではないですが、売上高に関する要件、特に個人的には売上高構成比要件はかなり厳しい要件ではないかと感じます。内容は後述の箇所を参照いただければと思いますが、当該要件は新業種・事業の売上高の割合が最大になることを求めるものなので、相当ドラスティックな変化が必要になると思われます。まぁ、そもそも主たる業種・事業を転換するわけですから、大きな変化を伴うことは当然なのですが。
それでは概要を把握したところで、以下では各要件ごとの要件(ややこしいので各要件を充足するための「要素」としてます)を確認したいと思います。
各要件を充足するための要素は?
ここでは、各要件ごとにその要件を満たすための要素を取りまとめます。これらの要素は、「任意要件」とされているものを除き、すべて満たさなければその要件項目に該当しないことになりますのでご留意ください。また、これらの要素を満たさないとその要件に該当しなくなり、ひいてはその類型に該当せず補助金の応募ができなくなるため、各要素ごとに指針で示されている「要件(要素)を満たさない場合」の概要も簡単に確認したいと思います。より具体的な例は、別のブログにてまとめる予定ですので、そちらをご覧ください。
以下、各要件ごとの要素を要約したものとなります。
製品等の新規性を満たす要素とは?
本要件のポイントを一言で言うと、文字通り新しい製品・商品・サービスを製造・提供しなさい、ということです。そして、「新規」と言えるためには4つ3つの要素をすべて満たさなければならないとされています。
概要は上表の通りですが、いくつか留意すべきポイントがありますので、それらも確認したいと思います。
- 「新規性」とは、世の中における新規性(日本初・世界初)ということではなく、再構築に取り組むその事業者にとっての新規性であるとされています。ですので、必ずしも革新的なアイデアでもって新製品等を実現するようなものでなくてもよいということですね。
③の競合他社については、本指針で明示されているわけではありませんが、普通に考えて「既存」の業種・事業における競合他社を指しているものと考えられます。仮に再構築に取り組む「新」業種・事業での競合他社となれば、新業種・事業で製造等しようとする新製品等は、当然それらの競合他社で既に製造等されているはずですので(まったく新しいものを創り出す場合は別ですが)、③の要件を満たさないことになります。
ですので、例えば「事業転換」を行う場合に、日本料理屋を営んでいた事業者が「初めて」焼肉屋を営む場合は、他の日本料理屋で焼肉店を営んでいないことを説明できれば③の要件は満たす、ということになります(手引き「3-3」の例をご覧ください)。とはいえ、これを分析して示すことは簡単ではないように思えますね。。
2021/3/29の指針修正でこちらの要素は削除されました!元々どうやって調べるのか、またどう審査するのかという懸念があったところですが、申請する事業者の皆様や支援業者にとっては削除されてよかったですね。- ③の要素は、定量化できる場合に限るとされていますので、定量化できないものである場合は当然数値で示す必要はないことになります。但し、この場合でもそれが定量化できないものであることをしっかりと示す必要があると思います。
- 上表の3つの要素で要件を満たさないケースの他、「④その他の場合」として以下のような場合も要件を満たさないとされています。
(A)単に既存製品等の製造量等を増やす場合
(B)既存製品等に単純な改変をしただけで新製品等を製造等する場合
(C)既存製品等を単に組み合わせて新製品等を製造等する場合
(D)事業者の事業実態に照らして容易に製造等が可能な新製品等を製造等する場合⇒3/29修正で追加されています
市場の新規性を満たす要素とは?
本要件において必ず満たさなければならない要素は①のみとされています。「市場」については世の中に無数に存在し、必ずしも各市場を一義的に定義づけられるものではないと思いますが、本指針では①の「代替性が低い」ことを要件としているので、それを示すことができれば新規の市場と言えることになると理解できます。
そして、代替性が低いということは、新製品等を販売しても既存製品等の売上が大きく減らないということだと示されているため、この点の検討は比較的容易だと思われます。
ただし、本要件でも留意すべきポイントがありますので、それらを確認したいと思います。
- 事業計画の作成上、代替性が低い⇒売上が大きく減らない、を示せればよいというものでありません。指針では、売上が大きく減らないというのは当然の要素としていると考えられ、事業計画ではむしろ新製品等によって既存製品等の売上が相乗効果により増大することを示す必要がある、とされています。詳細は公募要領を待ちたいところですが、実際の審査ではこの点は重要なポイントになると考えられます。
②の任意要件は必須要素とはされていないものの、顧客層が異なることを示していない場合には高評価が得られない可能性があるとされています。従って、採択への影響を考えると事実上必須の要素として検討すべきものと考えた方がよいと思われます。
2021/3/29の指針修正でこちらの要素は削除されました!任意要件でしたが、こちらも申請する事業者の皆様や支援業者にとっては削除されて楽になった点ですね。
製造方法等の新規性を満たす要素とは?
本要件については、製品等の新規性とほぼ同じであるため、詳細は割愛させていただきます。
設備撤去・商品等の新規性デジタル活用要件を満たす要素とは?
本要件は、「非製造業の分野で業態転換を行う場合」に求められる要件であり、①と②のいずれかの要素を満たせばよいとされています。なお、3/29の指針修正にて、従来のデジタル要件が削除され、代わりに商品等の新規性要件が追加されました。したがって、この商品等の新規性要件または設備撤去等の要件を満たせばよいということになります。商品等の新規性要件は製品等の新規性要件と同一です。
①については分かりやすいと思いますが、②については一定の留意が必要となっており、以下の点を確認してください。
デジタル活用要件では、単にタブレット端末を利用するだけといったように、単に汎用性のあるデジタル機器やソフトを利用するだけでは要件を満たさず、業態転換で求められる商品・サービスの「新たな提供方法」のために、その事業に応じてカスタマイズしたり一定の工夫が必要とされています。本要件は本補助金の申請をするための「最低条件」とされており、これらに加えて先進的なデジタル技術(AIやIoT技術など)を活用する計画を策定することで、審査上高評価を受けることができる場合があるとされています。よって、採択可能性を高めるためには、この点も無視できないポイントかと思われます。
売上高10%要件を満たす要素とは?
本要件は複数の要素はなく、3~5年の事業計画期間終了後に新製品等の売上高が総売上高の10%以上を占める計画を策定することが求められるのみです。
ただし、留意すべきポイントとして、10%という数値も申請のための「最低条件」とされており、より大きな割合となる計画を策定することで高評価を受けられる場合があるとされています。よって、この点も無視できないポイントになりそうです。
しかし、本ブログ執筆時点では公募要領が公表されていないため何とも言えないところですが、仮に計画で示した数値が未達成となった場合のペナルティが設けられるとすると、到底達成できないような数値で計画を作成することはできないと思いますので、高評価を狙った無茶な計画を作成することは避けるべきかと思います。
売上高構成比要件を満たす要素とは?
本要件も複数の要素はなく、3~5年の事業計画期間終了後に新製品等が属する業種・事業の売上高構成比が最大となる計画を策定することが求められるのみであり、売上高10%要件のような最低条件という記載はありません。
冒頭で記載したように、本要件はかなり厳しいものになりそうな気がしますが、翻せば業績が悪化した既存事業等から思い切った撤退を促すメッセージのようにも思えます。
まとめ
事業再構築指針の大枠を見てきましたが、改めてまとめると以下のような形になります。
まずは本指針の大枠を理解し、自社が検討している再構築がいずれの類型に当たり、各要件を満たすような内容で考えられていたかをしっかり検討することが必要です。
当事務所では事業再構築補助金をはじめ、各種補助金の申請支援を行っております。申請をお考えでサポートが必要な事業者様は、是非当事務所までお気軽にお問い合わせください。
大手監査法人出身の公認会計士・税理士
メルボルンでのバリスタ留学、カミーノ・デ・サンティアゴで780km完歩など、ちょっと変わった経歴を持つ会計士が税務・会計・財務などの専門情報とコーヒーについて発信していきます